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「強制執行は農民としての人権を侵害する権利濫用。認めてはならない」 第3回請求異議控訴審 裁判報告(5)石原健二補佐人

 市東さんの証言に受けて、最後に石原補佐人が陳述した。
 石原補佐人は、全国農業協同組合中央会を経て大学で教鞭をとってきた。専門は農学で、農地と農業・食料問題を主な研究課題としてきた。その知見から、市東さんの請求を棄却した一審判決は「間違っている」と述べ、次のように陳述した。
「一審判決が犯している誤りの底には、農地 ・農業が持つ高い公共的意義への無知と軽視、小作農の権利に対する無理解と意図的とも言うべき否定的態度がある」

 そして四つの論点から、一審判決批判を展開した。

1)市東さんの有機農業と産直的協同性
 補佐人はまず、「完全無農薬」を実践する市東さんの有機農業を具体的に明らかにした。そしてその特質について
「市東さんは“農業は人の食べ物をつくる仕事だから、人に害を与えるものを作ってはならない”という信念のもとに自分の農業をやっている」
と食の安全・安心を第一とする市東さんの農業姿勢を述べた。
 そして、もう一つの特質として、産地直送の販売方法をとっていること、成田周辺から都心に及ぶその取り組みを「産直型協同性」として高く評価した。
「この産直方式には、大手資本の流通支配によって失われた、人と人との関係を回復するという意義がある」
「小規模農家を切り捨ててきた間違った農政とたたかって、本来あるべき日本の農業を取り戻し、生き抜こうとしている」
 そして、
「長年の農業問題に携わってきた経験から、新自由主義政策によって生まれた社会的格差を克服し、地球規模の環境破壊を食い止める道は、 “人の命を育む農業実践”にあると確信している」と陳述した。

2)今も変わらない、農地法による耕作者保護の強固な原則
 では、小作地を耕す農民の地位と権利はどのようなものなのか。
 一審判決は、市東さんの小作地を「権利の安定性に一定の限界がある借地」と書いている。農地を土地一般に解消し、小作耕作権を徹底的に弱め落としめた。
 市東さんは証言で、「たとえ小作だとしても耕す権利がある。『国策』だといってそれを奪うことに怒りを感じる」と強く抗議している。
 石原補佐人は、まず、日本の近代的土地所有の確立過程を詳しく話した。
「明治以降、敗戦まで、日本の農業は、経営規模の小さな自作農的土地所有制度を基底とし、地主と小作農を両極とする半封建的小作関係が支配した。この過小農制度と高率物納を基礎におく半封建的小作農制度こそ当時の日本農業の特性」
「“耕す者に土地を”の農地改革は、日本では敗戦と戦後民主主義によって現実化し、農地法に結実した。耕作者の地位の安定が歴史的に位置づけられた」
「農地法は、幾度かの法改正がなされてきたが、「小作農」とりわけ「残存小作」の保護条項の核心は変わっていない」といって、1970年代以降の列島改造と財界が求めてきた土地法制の改悪においても、耕作者の地位の安定をはかる機能は保持されていることを明らかにした。
 そして、一審判決が「権利の安定性に一定の限界がある借地」という間違った認定のもとで行なった損失補償について、「公共用地の取得に伴う損失補償基準要綱」に反するものであると指摘した。

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3)間違った農政のもとで進行した成田空港建設
 次に、石原補佐人は、市東さんの農地取り上げの直接的な原因としての成田空港、その主体である空港会社、その大規模地域破壊を野放しにする農業政策を批判した。
 北総地帯は1960代のはじめに農林省も認定した優良農地だったという。その優良農地が地元から近隣農家を含めて数千戸の猛反対にも関わらず、力をもって潰されたこと、それは食料自給の考え方をもたず、適地を切り捨て開発優先に走らせた農業政策にあることを明らかにし、批判した。
「空港建設による農業破壊は、農地を空港敷地とすることによる直接的な農地破壊とともに、水系の断絶、気象変動、そして移転などによる共同体の衰退をもたらした」
「食糧自給の概念を持たず、食料調達を海外に求める道を歩み続けてきた歴史が、農業の公的役割を押しつぶし、農業適地切り捨ての政策を推進した」
 そして、近年とくに強まる、財界と企業のための農業政策、世界に例を見ないほどの自給率3低下(37%)と増え続ける食料輸入、そのための貿易協定を批判し、日本農業が衰滅の方向に向かっている旨を陳述した。

4)強制執行は権利濫用であり、認めてはならない
 そして最後に、日本農業のあるべき姿と市東さんの農業の意義を陳述した。
 今も、世界の農業の9割が家族農業で、その家族農業が世界の食料の8割を生産しているという。国連は2019年からの10年間を「家族農業の10年」した。
 日本は1960年の農業基本法以来、専業農家の育成を掲げてきたが、狭小の国土と風土ゆえに多品目少量生産が日本農業のあるべき形で、むしろドイツはその日本に学び兼業化を推進したという。
 そして、
「1955年の全国土地利用計画以来、開発行政が農地転用を押し進め、農業はそこに取り残された“残存農地”でやればいいという扱いだが、根本的に間違っている」
「地産地消・多品目少量生産、小規模家族経営こそ日本農業の特質であって、市東孝雄さんの農業は、その先端にあると言って過言ではない」
と賞賛した。
 さらに、新型コロナの感染爆発と地球温暖化による気候変動が猛威を振るっていることに触れて、「効率と利益を追求するあり方からの転換が求められている」と指摘した。感染爆発と地球温暖化の原因は新自由主義とグローバリズムにあるが、財界と企業が求めるままに、農地と農業をつぶし、山と河川を荒らす日本の農政はこの下にある。

「これとは違う意義ある農業を地道に続ける市東さんの生業を潰し、廃業に追い込む強制執行は、農民としての人権を侵害する権利濫用であり、絶対に認めてはなりません」と訴えた。

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